力をもってすると駄目。何でも力を入れぬでも済むコツがある 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
力をもってすると駄目。何でも力を入れぬでも済むコツがある
「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
通春(宗春)は母の見舞いという名目で二ヶ月間江戸を離れている。
そこで、蟄居謹慎させられた兄通温を見舞うという設定にした。
通春は名古屋に戻り、蟄居謹慎している兄の安房守左少将通温を訪ねる。
松平通温: 「おお、主計頭か?元気か?」
松平通春: 「兄上、お久しぶりでございます。すっかりお元気そうで。」
松平通温: 「まぁこの屋敷からは出られんからのう。それにここには酒も女もない。まるで坊主のような生活じゃ。されどな、酒が抜けると、なんと己がたわけだったかよくわかる。今は庭の花を愛で、木刀を振る毎日じゃ。おかげで見てみい、この身体。」
通温は上半身裸になり、筋骨隆々の姿を通春に見せる。すると、通温の見張りの者が
見張り役: 「安房守様は、私どもが三人がかりで動かぬあの庭の石も、お独りで軽々動かされまする。」
と庭の石を指さして言われますと、通春は驚く。
松平通春 「あの石をですか?」
松平通温: 「力をもってすると駄目じゃ。なんでも力を入れぬでも済むコツがあるもの。今はそれがよう分かる。兄上の、圓覺院様の言葉をもっと早うから学ぶべきじゃった。こうして金の鯱を見ておるとな、権現様が尾張藩を敬公に任せられた意義もわかってきた。尾張は決して将軍位を争ってはならぬ。われら連枝は宗家を支えることこそ使命。それを超えると宗家が滅びかねぬ。今となっては何もかも遅いがのう。」
松平通温: 「兄上。」
松平通春: 「そなたには随分とひどい事を行ってきたものよのう。それでもそなたは何時も兄として私を奉ってくれた。感謝するぞ。まぁこれも幕閣に祀り上げられ調子にのっておった私への天罰よ。」
通春と通温は、夜が更けても子供の頃の話など、長く話をした。ふたりともこれが今生の別れとも知らずに。
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