何事も伝聞のまま信じるのではなく、自分で確かめる 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
何事も伝聞のまま信じるのではなく、自分で確かめる
「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
歴史書では、山下幸内が、紀州藩の浪人として当然居たものとされるが、
私の拙い研究では、彼の実在を認める文献が見いだせなかった。
それゆえ、山下幸内は吉宗の一人芝居ということで設定した。
九月、青山に住む紀州浪人山内幸内が、
目安箱に吉宗様の政策を批判する訴状を入れたというできごとが起きる。
訴状の内容は、
「紀州藩主と将軍とは立場が異なる、質素倹約では庶民が成り立たぬ」
という吉宗の政策への批判文章であった。
吉宗はその率直さを認め、それを十一月二日に書き写させ、各奉行に配布させた。
これを聞いた通春(宗春)は不思議に感じた。
吉宗ならばその様な浪人を放っておくことなく、然るべき地位につけるであろうこと。
紀州の浪人であったのならばなおさらと思い、
自分で青山に出向く。
ところが山下幸内なる人物は青山に居らず、通春は驚く。
通春は、その夜に南町奉行大岡忠相の役宅に出掛ける。。
松平通春: 「越前殿、青山に行ってきました。」
大岡忠相: 「既にお聞きになられていましたか?山下幸内のこと。」
松平通春: 「お奉行たちはご存知のようですな。あれは上様の一人芝居で御座いますな。」
大岡忠相 : 「ははははは、主計頭様は流石でございますなぁ。何事も伝聞のまま信じるのではなく、御自分で確かめに行かれる。」
松平通春: 「もしあれを書くものが居るならば、私が召抱えます。上様は、自らを嗜めるために、幕閣を嗜めるために記されたのですな。そのうえこういう批判もあるであろうが分かっておるぞという事にもなりますれば。」
大岡忠相: 「いかにも。されど、あのような考えがあることを知っておらねばなりますまい。あの考えは、主計頭様が上様に常日頃申されていることではありますまいか?」
松平通春: 「ははははは。越前殿、どうやら我々二人も上様の掌の上のようでございますなぁ。されど越前殿、あまりやり過ぎないようにな。」
忠相と通春は互いの顔を見て笑う。しかし、通春の思いとは反対に、十日後、幕府は九十六業種に渡る商品価格の統制をし、新規の商品の禁止、新規の商売の禁止をしてしまう。その三日後に、月が隠れてしまう皆既月食がおき、江戸の町人たちは不安に駆られる。これらの政策も老中や若年寄に献策したのは、山城淀藩主松平左近将監乗邑であった。乗邑は、名門である戸田松平家を淀から鳥羽へ移し、自分がその淀に入ったほど、政治力に長けた俊才であった。
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