上に立つものは常に孤独 自らの道を進め 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
上に立つものは常に孤独 自らの道を進め
「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
若き宗春こと通春に主計頭という官位を授けた吉宗。
その後も、雁を特別に下賜したり
江戸城内の紅葉山東照宮の参拝に特別に予参をさせたり
母の見舞いに尾張に一時帰国させたり
一度廃絶した梁川藩を復興させたり
藩を継承して一年で日光東照宮参拝を許可したり
兄の義孝を飛ばして尾張藩主を継承させたり
吉宗はどう見ても宗春に目をかけていました。
そこで私は、宗春と吉宗は昵懇であったという設定にしました。
今回は、通春と吉宗が野掛けをしたという設定です。
吉宗と通春は先へ進む。
武蔵野の大きな野原に出るとお二人は馬を止め、野原で仰向けになって寝転んだ。
松平通春: 「上様、いつまでもこうしていたいものですね」
徳川吉宗: 「ほんにそうじゃなぁ。だがそうも行かぬらしい。政も徐々に道筋ができてきた。こうして外駆けすることも許されなくなりそうじゃ。じゃがな、わしはお主とこうして野山を駆け巡るのが何よりも大好きじゃ。この先、どうなっていくかは分からぬ。本来ならば、お主の兄の吉通殿が将軍職に継ぐべきじゃったのだが、何の縁かわしが継がねばならなくなった。吉通殿は、お主のことが大層お気に入りでな。連枝として、亡き摂津守(四谷松平義行)殿のように、常に側に置いておきたいと言っておられた。もし吉通殿がご存命ならば、ワシは将軍職を引き受けなんだ。尾張(継友)殿ではのう。致し方がなかったのじゃ。もし、わしが紀州、いやそなたと同じように紀州の連枝であれば、そなたと毎日のように野駆をし、相撲を取り、狩りをできたものを。」
松平通春: 「亡き兄(吉通)が申しておりましたのは、尾張は、決して将軍位を争ってはならぬと。尾張には権現様から預かった大切な大きな役目がある故と。」
吉宗は少し真剣な眼差しをする。
徳川吉宗: 「そうであったか。尾張の執政(附家老成瀬隼正・竹腰壱岐守)達が積極的に動かなんだと聞いてはおるが、そういうことであったか?」
松平通春: 「私は尾張藩主の亡き兄上のそばで働きとうございました。」
徳川吉宗: 「柳澤殿も同じ考えでなぁ。そうそう、そなたのことを自分の跡継ぎができたと。たいそうお喜びじゃった。されど両人共もう居らぬ。残された者はさびしいのう。」
松平通春: 「上に立つ者は常に孤独ですね。」
徳川吉宗: 「今後、立場上、そなたと、こうして外に出ることも許されなくなるであろう。城中で会っても、話さえ出来ぬやも知れぬ。またときにはわしはお主に厳しく接しなければならぬこともある。商人と仲のよいのお主がいつも言うように、本来は規制を緩めねばならぬのやもしれぬ。米ではなく金子を元にした勘定方にせねばならぬのやも知れぬ。しかし、今のわしはわしの道を行く。お主はお主の信じる道を歩め。」
二人はしばらく天を見つめる。
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