四苦八苦を抱え、根を張る時期。人の三不幸とは?「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
四苦八苦を抱え、根を張る時期。人の三不幸とは?
「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
江島生島事件があり、それに対処出来なかった自分を攻める通春(宗春)。
それを公辯法親王に相談に行ったという設定です。
公辯:
「江島殿のこと残念でなりませぬ。赦免を乞うたのじゃが体良く扱われました。」
求馬通春:
「門跡様、今回の場合、私はどうすればよかったのでしょうか?」
公辯:
「四苦八苦をごぞんじかな?」
求馬通春:
「生、生きる苦しみ。老、老いる苦しみ。病、病の苦しみ。死、死の苦しみ。
愛別離苦、親しき者と別離する苦しみ。
怨憎会苦、怨み憎む者と出会う苦しみ。
求不得苦、求めても得られない苦しみ。
五蘊盛苦、苦しみが次々と湧いてくる苦しみ。以上でございます。」
公辯:
「うむ。よく学ばれておる。生きている限り苦しみは伴うもの。此度はいかがでございましたか?」
求馬通春:
「後ろの四苦が痛いほど身に沁みました。まるで底なしの沼に陥ったような。」
法親王は通春を見つめる。通春は法親王の顔を見つめ、カッと目を開ける。
求馬通春:
「泥の中の蓮でございますね。」
公辯:
「よう覚えておいでだ。」
求馬通春:
「されど此度の私は泥の中に埋まってしまい、花を咲かせられませんでした。
むしろ美しき花をみすみす枯らしてしまったような。」
公辯:
「そなたの生き様はこれからではありませぬか。
そなたが此度のことをよくよく覚えておいて、
上に立つ者となったときに、此度のことを活かせば、
此度の出来事は無駄にはなりますまい。
そなたはまだ花を咲かせる段階ではなく、
根を張る時なのではあるまいかのう。」
求馬通春:
「根を張る時期。」
通春は、その言葉を繰り返し、しばらく沈思する。そして
求馬通春:
「確かに十九の私は根を張る時期で御座います。」
公辯:
「人に三不幸ありをご存知ですか?」
求馬通春:
「『小学』ですね。」
公辯法王様はうなずき
公辯:
「第一の不幸は?」
求馬通春:
「第一は少年にして高科に登る。
第二は父兄の勢いに席りて美官となる。
第三は高才有って文章を能くす」
法親王は、笑顔になり、
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