「海」の意味 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
前回に引き続き、柳澤吉保と萬五郎通春(宗春)の対話。
柳澤吉保:
「萬五郎様の、その素直さがよろしゅうございまするな。
大いに学びなされませ。大いに学びなされませ。
清濁を併せ呑む大きな人になられませ。
ところで弘法大師(空海)や慈眼大師(天海)の名前に
何故海の文字が入っているかおわかりですか?」
萬五郎通春:
「大きいという意味なのでは?」
柳澤吉保:
「天も空も無限に大きい。海も大きいには違いありませんが、他には?」
萬五郎通春:
「『貞観政要』十思九徳でございますか?」
(中略)
萬五郎通春:
「他には海はどの川よりも低いところにある。
それ故にすべての水が集まる。ということで御座いましょうか?」
吉保は、池の鯉に餌をやりながら、
柳澤吉保:
「いかにも。では他にはございませぬか?」
通春は、しばらく考え、池を見つめる。
萬五郎通春: 「先程の、青濁併せ呑むと関係がありましょうか?」
吉保は、鯉の餌を止められて、萬五郎様を慈しむように見つめ
柳澤吉保:
「なかなかの慧眼でございまする。
海はきれいな水も汚れた水も飲み込んで、
それを清浄に浄化する力を持っておりまする。
水清ければ魚住まず。
ほんとうに美しいとは、清濁併せ呑む大きな心なのではないでしょうかな。」
萬五郎通春:
「元禄の世もそのような理想を掲げられたのでしょうか?」
柳澤吉保:
「常憲院(五代将軍綱吉)様は生命というものをとことん尊ばれました。
生類憐れみの令も、下々の者は勘違いをしてしまいましたが、
生命の尊さを訴えたものであるのです。
一度、消えた生命は決して戻りませぬ。」
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