情に流される愛論と理屈に走る見論を離れる 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
情に流される愛論と理屈に走る見論を離れる
「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
前回に引き続き、公辯法親王と通春(宗春)との対話
法親王は、笑顔になり、そして少し難しい顔になる。
公辯:
「幕閣の者達はこれをわきまえておりませぬ。なんでも理屈で決めようとする。」
通春は涙をためて
求馬通春:
「それが悔しくてなりませぬ。」
公辯:
「華嚴經の入法界品をご存知ですか?」
求馬通春:
「東海道五十三次の元になった?」
公辯:
「よくご存知ですなぁ。その善財童子の案内役はどなたでしたか?」
求馬通春:
「確か文殊菩薩かと」
公辯:
「そのとおり。その文殊菩薩とはどういう方ですか?」
求馬通春:
「智慧の文珠。」
公辯:
「智慧とは?」
求馬通春:
「暗闇に光る灯明。ありのままに見ること。」
公辯:
「他には?」
法親王は右手に剣印を結ぶ。それを見て通春は
求馬通春:
「不動明王と同じ諸刃の剣」
公辯:
「何を切るための道具ですかな?」
求馬通春:
「煩悩かと」
公辯:
「そう。それじゃ。文殊菩薩は、その煩悩が巻き起こす
二つの極論を切り裂き、中道を掲げる仏じゃ。」
求馬通春:
「二つの極論とは?」
公辯:
「二つの極論を戯論という。
一つは愛論。情に流されること。
もう一つは見論。理屈で固めて凝り固まった考え。いかがかな?」
求馬通春:
「大奥が愛論で、幕閣が見論ですね。」
公辯:
「保山殿や江島殿は、中道を歩まれた方であった。
そういう方々を追い出すお城の輩は悲しいですなぁ。」
求馬通春:
「私が戯論を離れる道を全うすればよいだけのことですね。」
公辯:
「うむ。そこに気づかれれば本日の講義は終わりじゃのう。」
求馬通春:
「ありがとうございます。雲がひとつ晴れました。」
公辯:
「また来なされ。そなたと話すと楽しいゆえな。」
求馬通春:
「もったいなきお言葉、痛み入りまする。これから保山殿を訪ねてきます。」
公辯:
「そなたのそういう所が良い。何事も頭ではなく、自分の血肉になされませ。」
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