殿の中で咲く蓮の華のように 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
殿の中で咲く蓮の華のように 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
今回は前回に引き続き、公辯法親王と求馬通春(宗春)の対話です。
求馬通春が、義姉(兄嫁)九條輔子の兄・夫・息子が
半年で次々と亡くなってしまったことから、名古屋へ引っ越すことになり
そのことを輔子の伯父である公辯法親王に、
通春は相談に来たという設定です。
宗春と公辯が出会っていたという記録がありませんが
非常に近い方であったのは事実ですので、こうした創作をしました。
公辯法親王は天台座主ですので、天台の話を用いています。
公辯:
「そなた、この天台宗の所依の経典を知っておるか?」
求馬通春:
「法華経・華厳経・涅槃経・大日経・金剛頂経・蘇悉地経でございましょうか?」
公辯:
「ほほう。そなた仏法もよう学んでおるな。此度は法華経の話じゃ。
この法華経は蓮の花という意味だが、いかが思うか。」
求馬通春:
「泥の中で咲く花。」
公辯:
「うむ。そのとおりじゃ。仏で言うと阿弥陀如来であり、
その阿弥陀様が変じられた観音菩薩ということよ。」
通春は、眼を大きく開けて法親王に問う。
求馬通春:
「人の命は無常であり、この世界は泥にまみれている。
しかしだからこそ自らは阿弥陀如来に包まれて本質は清らかであり、
泥にまみれた世界であっても泥に染まることなく、
観音様のように生きて行けということでございましょうか。」
公辯:
「輔子や左大臣(九條輔實)よりそなたのことを聞いておったが、予想以上だ。」
通春は、突然深くお辞儀をし
求馬通春:
「ありがとうございます。私の霧が晴れました。」
公辯:
「うむ。どういうことかな?」
求馬通春:
「世は無常。そして権謀術策に満ちては居ますが、
だからこそ、そのなかで輝く蓮であれ。泥に染まらぬ蓮であれ。」
公辯:
「そなた、ここへも時折訪ねて参られよ。そなたと話しておると楽しいゆえ、
話し相手になってくれるか?私の身分を憚って皆が遠慮しておる。
まぁ、伯父と姪ではあるが、輔子と私とではずいぶんと異なるがのう、
わははははははは。」
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