他と異なる道を歩む 「千年先を見つめて(尾張七代藩主徳川宗春物語)」より
萬五郎通春こと宗春が上京する直前に、生母の宣揚院を尋ねた時の会話です。
萬五郎通春:
「私は徳川将軍家ではなく尾張藩の庶子でございます。
もし将軍家になにかある場合は、尾張藩が支えねばなりませぬ。
尾張が将軍家と同じ様なことをしていては
神君が尾張藩をお作りになられた意味がなくなりまする。
将軍家・尾州・紀州の三つでこの日の本を守らねばなりませぬ。
つまり、それと同じように私が兄上と同じことをしていては
神君の意に逆らうのと同じ事でございます。
それゆえ、この尾張藩を支えるためにも
私は常に皆と反対の道を歩みたいと存じます。」
宣揚院:
「よくそこまでお気づきなされた。私があなた様を生むことができたのも、
他の方々とは常に異なる道を歩んだからにほかなりませぬ。
それともう一つ言い聞かせることがある。
四谷に移られた本寿院様の元へ行くように。」
萬五郎通春:
「誰もが避けて通る本寿院(藩主吉通母)様の元へ?」
宣揚院:
「本寿院様は美しい方でございます。
心根も美しい。頭も名刀のようでございます。
殿の御生母として立派な方。
されどそのために、若き殿へのご影響が大きすぎ年寄りどもにより
罠にはめられ四谷屋敷へ閉じこめられてしまいました。
しかし、あの方から学ぶことは多いはずです。
江戸表で殿にお仕えし、本寿院様ができなんだことをあなた様がなされませ。
他の兄上方とは同じ道を歩みなされてはなりませぬ。よろしいですか。」
萬五郎通春:
「はい、肝に銘じます。」
| 固定リンク
コメント